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イングリッシュ・ブルーベルとスパニッシュ・ブルーベルの違いについて





雑木林ではブナの樹が葉を広げ始め、
ブルーベルの花も盛りを過ぎて、代わりにシダが葉っぱを広げつつあります。




2007年頃に、日本の某有名園芸サイト(有名無名の超熱狂的園芸家たちの集る掲示板)に、
イングリッシュブルーベルについて書いたことがありましたが、
その時に日本ではこの花のことがどの程度知られているのかしらとネットを検索してみたら、
これがまさにオドロキモモノキサンショノキでした。

日本で栽培されているブルーベルのほぼすべてがスパニッシュブルーベルかそのハイブリッドで、
ネット上ではそのスパニッシュあるいはハイブリッドを「イングリッシュブルーベル」と記載しているのです。
正しい記載のあったのは、唯一球根の趣味専門家のサイトに短い記述があったのみでした。
(恐らく、ウィキペディアの『イングリッシュブルーベル』の日本語版もなかったように思います。)


そんなわけで、
『日本のサイトで「イングリッシュ・ブルーベル」として記載されているものが、
殆どすべて明らかにスパニッシュかハイブリッドなので、
本当のイングリッシュ・ブルーベルについて知っていただきたいと思って、書いています。』
と言うような書き出しで、以下のような詳細情報を入れたのでした。




(前文略)
ところで、「ブルーベル」と一言で言っていますが、大きく分けると
イングリッシュ・ブルーベル( Hyacinthoides non-scripta) とスパニッシュ・ブルーベル( H.hispanica) 、
そしてこの二つを掛け合わせたハイブリッド(H. x massartiana)があるのをご存知でしょうか。

non-scripta「書かれていない」という変な種小名は、ヒヤシンスとの区別のためにつけられたのだとか。
(皆様ご存知のヒヤシンスの伝説にあるAiAiと言う文字が、
ブルーベルの花には「書かれていない」と言う意味のようですね)



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                        (イングリッシュ・ブルーベル)


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              (イングリッシュ・ブルーベル:乳白色の葯が見えますね)

イングリッシュ・ブルーベルの花は、筒状で、先端はくるりと反り返っています。
葯は乳白色で、花の殆どが茎の片方についているので、下垂した状態になります。
葉はスパニッシュと比べるとかなり細いです。
花には甘い香り(ヒヤシンスをもっとデリケートにしたような香り)があり、
群生している場所では一面に強い芳香が漂っています。





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                     (スパニッシュ・ブルーベル)

スパニッシュ・ブルーベルの花は、筒と言うよりはベル型で、
先端は少しカールしている程度です。
葯の色は、咲き初めの頃は青色をしています。
花は茎の周り全体に付き、花茎は直立します。
(咲き切ると花の重みで垂れ下がることもありますが。)
葉はかなり広めで、香りは殆どありません。


イングリッシュ・ブルーベルの自生地は、イギリスの他に
ベルギー、フランス、オランダ、アイルランド、スペイン、ポルトガルですが、
その70%はイギリスの地に生えています。
イギリスではブルーベルの群生によって、森が Ancient woodland かどうかを特定することがあるくらい
重要な指標生物(ancient woodland indicator species)だとも言えます。

ところが、イギリスの庭(都会を取り巻く周辺)で見かけるブルーベルは、
殆どがスパニッシュブルーベルかハイブリッドで、
イギリス人でさえもその区別を知らない人がけっこういるようです。
スパニッシュの方が、見た目が派手で花も大きく、繁殖力も旺盛で、イングリッシュとの自然交配が進み、
イングリッシュ・ブルーベルは法律で保護されてはいますが、
純粋なイングリッシュは減少の一途を辿っているようです。
私の庭でも、植えてもいないのにそこここからスパニッシュが顔を出し、
見つけ次第抜きまくっているのですが、
球根が深く潜っていて抜き切れず翌春には数を増やして出現してきます。

うちの周辺は、車で走ると行けども行けども雑木林の中はブルーの海という景色が続きますので、
そんなに緊迫しているとも思えないのですが、
専門家の中には、地方によってはもうすでに戦いは済んだと、
イングリッシュブルーベルの完全敗北を宣言する人もいるようです。
RHSも、田舎ではスパニッシュやハイブリッドを庭に植えないようにと忠告していますし、
ナーサリーにラベルの表示をはっきりさせるよう指示しているとのことです。

もう一つ、イングリッシュ・ブルーベルが激減している理由は、
woodland(主に落葉樹で成り立っています。いわば日本の里山みたいなもの)を
コニファーの単一植林に変えてしまったことや、
落葉樹のcoppicing(コピシング)をしなくなった事もあるようです。

イングリッシュ・ブルーベルは Wildlife and Countryside Act 1981(野生生物及び田園地帯保護法)と
言う法律で保護されている種になります。
土地所有者が所有地から球根を掘り出して売買する事は禁止されていて、
野生の球根を自生地から採取することも犯罪になります。
この法律は1998年に更に強化され、野生の球根または種子のいかなる商取引も違法となっています。
(後文略)

[新しく書き込みのための文を作成するつもりでいましたが、
    あえてそのまま再掲載することにします。]


上の書き込みをしたあと、掲示板に集う人たちのさまざまなコメントで、
2007年の時点では、日本ではホンモノのイングリッシュの球根が手に入らないこと、
「イングリッシュ」と明記のある球根を入手して植えてもスパニッシュが出てくること、
詳しい情報がないことなどが明らかになりました。




それから約8年が過ぎて、改めてブルーベルのことを検索してみると、
どうやらイングリッシュ・ブルーベルとスパニッシュ・ブルーベルの違いというのは
だんだん認識されつつあるように思われます。
(でも、まだスパニッシュの写真を貼って、堂々とイングリッシュと明記しているブログも多いようです。)

また、ここ数年英国からイングリッシュ・ブルーベルの球根を輸入して販売するナーサリーも
出てきているようですが、
すでにスパニッシュが氾濫している日本に、イングリッシュ・ブルーベルを導入したところで、
ハイブリッド化してしまうことは間違いないのにと余計な心配をしてしまいます。

まあ、自生地ではない日本でいくらスパニッシュやハイブリッドが増えようといっこうに構わないわけですが、
ここ英国においては、滅亡への道をひたすら進みつつある自生種のイングリッシュ・ブルーベルを守るために、
庭にスパニッシュを植えるのだけは自重したいものです。

とは言うものの、スパニッシュの蔓延る勢いは恐るべきもので、
私の住む周辺でも、この8年間で民家の周辺はすでにスパ+ハイに征服され、
雑木林の周辺にまで占領地を拡大しつつあります。
しかもハイブリッド化すると、限りなくイングリッシュに近いものまで出現するので、
見極めるには DNAを調べないことにはわからないものまであるとのことです。

約300年前にイギリスに持ち込まれたスパニッシュ・ブルーベルは、
ガーデナーたちの無神経な手によって、次第にその領域を広げ、
今では英国中のブルーベルの森の6分の1にはスパニッシュが存在するまでになっています。
今の状態で行くと、50年以内に自生種のブルーベルは姿を消してしまうことになるようです。



8年前の記述の中に、
>落葉樹のcoppicing(コピシング)をしなくなった事もあるようです。

と書きましたが、
もう少し説明を付け加えると、
コピシングとは、樹木の高さを調整するために、ある程度の高さの所で毎年伐採を続けることです。
そうすることで、新しい枝の更新を図ります。
かつてはコピシングした枝で家具や日常用具を作ったり、炭焼きに利用したので、
雑木林は人々の生活になくてはならないものだったのです。
日本でも、一昔前に養蚕のために桑の木を毎年伐採していたのと似ていますね。
そして、雑木林や里山が時代の流れと共に廃れてしまったのは、いずれの国でも同じことです。

かつては、伐採後の林床には日がよく当たり、ブルーベルの花が咲くのに適していました。
そして、花が咲き終わる頃になると、入れ替わりに樹木の若葉が広がり始め、ブルーベルは休眠期に入ります。
自然はうまく調和し合い、人々の営みもブルーベルを守る役割を果たしていたのですね。

また、コニファーなどの常緑樹の植林では、林床にまったく日が射さなくなり、
ブルーベルは生き延びることができなくなってしまいます。



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私の住む周辺の雑木林は殆どが私有地ですが、
土地の所有者たちは木々の伐採をして日当たりを良くしたり、
下草刈りをしてブルーベルを守っていると聞いてきます。
ブルーベルの海になるには何世紀もかかるそうですので、
やはり里山同様、人がきちんと世話をしていかないといけないようですね。




とは言うものの、そういう努力も時すでに遅しなのかもしれません。

今年(2015年)発行のオックスフォード・ジュニア辞典では、
すでに「キンポウゲ」や「ドングリ」と共にこの花の名は姿を消してしまいました。
代わりに登場したのは、 「ブロードバンド」 や 「切り取りと貼り付け」などのコンピューター用語です。

残念ながら、「ことば」だけでなく、
英国の雑木林からイングリッシュ・ブルーベルそのものが姿を消すのも、
もう時間の問題のようです。
次世代の人たちは、特殊な眼鏡を掛けて、
コンピューターの作り出す架空のブルーベルの森を手探りで歩きながら、
人工的に作り出されたブルーベルの香りを楽しむことになるのでしょうか。




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by lapisland2 | 2015-05-18 06:54 | Bulb/Corm/Tuber/Rhiz | Trackback | Comments(6)

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Commented by ポアロ at 2015-05-18 21:15 x
私はイギリスのブルーベルの群落をみたことはありませんが、そのすばらしい写真をみてうちの庭にも植えたいと思っていました。おととしの冬に近くのナーセリーにイングリッシュブルーベルと書いた球根が売られているのを見つけて、すぐに買って植えてみました。去年、そして今年の4月も花が咲きましたが、スパニッシュやハイブリッドが増えているとの話を聞いて、うちのはどれなんだろうと写真と比べたりしていました。写真をブログに載せていますが、イングリッシュかあるいはハイブリッドのようです。今年の冬にも買えたらまた買って数を増やしたいとおもっています。
Commented by lapisland2 at 2015-05-19 07:37

ポアロさん、こんばんは。
日本ではスパニッシュを植えている人が殆どだと思いますので、
交雑を避けるために種で増やさないようにして、株で増やすようにされた方がいいですよ。
(私は花後すぐに花茎を引き抜いています。)
それとブルーベルは他の花との混植を嫌いますので、できれば落葉樹や落葉花木の下に単独で植える方がよく増えます。

ポール・スミザーさんのGARDEN ROOMS で8月くらいから球根を販売すると思います。
あと一つ、北海道の山野草の専門店でも輸入販売していたと思うのですが・・・名前忘れてしまいました。
その2店なら、確かな所から輸入しているのではないかしらと思われます。
Commented by surume393939 at 2015-05-19 21:45
Lapisさん こんばんは。
何度みてもブルーのさざ波はきれいです。心が洗われる光景です。大きな木立の若葉とともに見られるので一層美しいのでしょうね。
スパニッシュとイングリッシュと詳しく解説してくださったので およそわかってきました。やっぱり今までみてきたブルーベルはスパニッシュです。我が家の物もそうです。年々球根が大きくなり、だれっとした大きな葉を広げているのをみるのは嫌ですね。正統イングリッシュブルーベルの球根が手に入るのなら 育ててみたいです。
Commented by lapisland2 at 2015-05-20 03:31
surumeさん、こんばんは。
もし、イングリッシュブルーベルを植えるのなら、その前にすべてのスパニッシュを
掘り上げてしまわないとだめですよ~!
これがね、なかなかの力仕事になります。とにかく球根が深い所に潜っているので、少々掘ったのでは切れてしまいますので。
それとご近所でスパニッシュを植えているならば、上のポアロさんの返信に書いたように種を付けないようにして、増やすのは株分けだけにしないとすぐに交雑してしまいますよ。

私自身は、昔に植えて残っているもの以外は庭にブルーベルを植えないことにしています。
理由は自分のちっぽけな庭にチョコチョコ植えても本当のブルーベルのよさはわからないからです。
やはり野に置けブルーベル。
Commented by aosta at 2016-05-24 08:14 x
lapislandさま
初めまして。aostaと申します。イングリッシュ・ブルーベルとスパニッシュ・ブルーベルの違いを検索してこちらのサイトにたどり着きました。知りたかったことはもちろんですが、それ以上に充実した内容と、美しいお写真に感嘆しました。
なるほどブルーベルは、他の花との混植を嫌うのですね。
我が家のブルーベルは、木陰の下という条件はクリアーしていますが、近くにスノードロップを植えてしまいました。スノードロップの球根は掘り上げて、ほかの場所に移そうと思います。

Lapisさんの記事を参考に、拙ブログでもブルーベルについての記事をアップいたしましたが、その中でこちらのブログをリンクさせていただきました。
(URLを添付いたしましたので、ご確認いただければ幸いです)
事後承諾の形になってしまい、まことに恐縮ですが、どうぞよろしくお願い申し上げます。
Commented by lapisland2 at 2016-05-28 07:55
aostaさん、
はじめまして。
このところなぜかコメント欄の表示が消えてしまって、
コメント頂いていたのに気が付かないでいました。

リンク、ありがとうございます。
私の書いたものがお役に立ってうれしいです。
記事下のタグ、[Bluebell]をクリックして下さると、他のブルーベルの記事に行きます。)

ブログを拝見しましたが、aostaさんのお庭にあるのはスパニッシュのようですね。
(増え始めるとすごい勢いで増えますので、ご用心を!)
日本は自生地ではないので、スパニッシュでも一向に構わないと思いますが、
日本にお住まいでも結構イングリッシュにこだわる方もいらっしゃるようですね。
確かにイングリッシュの方を見てしまうと、その可憐さに魅せられてしまいますけれど・・・。
お住まいの地域はEブルーベルを育てるのに適していると思います。
耐寒性は強いので、スコットランドでも素晴らしい群生が見られます。
(ただし、スコットランドでは本来はツリガネソウのことを指します。)

>ブルーベルの花が鳴っているのを聞いてしまったら、それは自分の弔いの鐘
> ブルーベルの森に迷いこんだ子供は、二度と戻ってこない >
というのは、実はブルーベルは毒性が強いので、子供が近づかないようにとの
意味も隠されているのではないかと思います。
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